大相撲中継で力士の頭を見ると、髷(まげ)の先端が大きく広がり、イチョウの葉のような形になっていることがあります。この独特の髪型が「大銀杏(おおいちょう)」です。相撲の伝統を象徴する髪型であり、原則として十両以上の力士、つまり関取が本場所の取組や公式行事などで結います。
しかし、大銀杏は単に髪を長く伸ばして結んだものではありません。幕下以下の力士が普段結う丁髷との違い、十両昇進との関係、床山による専門的な技術、そして引退時の断髪式まで、相撲界の身分制度や伝統文化と深く結び付いています。
2026年現在も受け継がれている大銀杏の基本知識を、日本相撲協会の公式解説や歴史資料、床山の仕事を紹介した取材記事をもとに整理します。
【基本知識】大銀杏とは?相撲で十両以上の力士が結う特別な髪型

大銀杏とは、力士が頭頂部に結う髷の一種で、先端の毛束を大きく広げ、イチョウの葉に似た形に整えた髪型です。
読み方は「おおいちょう」。相撲の世界では、関取としての地位や格式を表す伝統的な装いの一つになっています。
大銀杏の名前の由来はイチョウの葉名前の由来は、髷の先端部分の形状にあります。
通常の丁髷では髪の先端を小さくまとめますが、大銀杏では毛束を広げ、扇状に整えます。その形が植物のイチョウの葉に似ていることから、大銀杏と呼ばれるようになりました。
日本相撲協会の公式クイズでも、大銀杏について、頭頂部に乗った髷の先端が銀杏の葉の形に似ていることが名称の由来だと説明されています。
見た目の特徴は次のとおりです。
- 頭頂部に髷がある。
- 後頭部から左右にかけて鬢(びん)が整えられている。
- 髷の先端が大きく広がっている。
- 毛先が扇状になり、イチョウの葉を思わせる。
特に後ろから見ると、毛先の広がりがよく分かります。
大銀杏を結えるのは十両以上の関取大銀杏を結う資格を持つのは、原則として十両以上の力士です。
相撲界では、十両と幕内の力士を合わせて「関取」と呼びます。十両は番付上の一つの大きな境目であり、幕下以下の力士とは待遇や役割が異なります。
日本相撲協会の力士規定では、十枚目以上の力士は出場に際して大銀杏に結髪しなければならないと定められています。
つまり、大銀杏は単なる希望制の髪型ではありません。関取が本場所に出場する際の正式な身だしなみとして位置付けられています。
ただし、昇進直後で髪の長さが十分でない場合などには例外もあります。
大銀杏は幕内力士だけの髪型ではないよくある誤解が、大銀杏は幕内力士だけが結えるというものです。
実際には、十両以上であれば大銀杏を結います。
そのため、幕内に上がっていなくても、十両に在位している力士なら大銀杏が認められます。
十両昇進は、髪型だけでなく待遇や土俵上での役割も変わる重要な節目です。大銀杏は、その変化を視覚的に示す象徴でもあります。
【髪型を比較】大銀杏と丁髷の違い・見分け方は?
大銀杏と丁髷は、どちらも力士が結う日本の伝統的な髪型です。
両者の違いは、髷の先端部分の形状と、主に使用される場面にあります。
大銀杏と丁髷の比較大銀杏
- 髷の先端がイチョウの葉のように広がる。
- 十両以上の関取が本場所や公式行事などで結う。
- 床山の高度な技術が必要。
- 力士の格式や伝統を表す。
丁髷(ちょんまげ)
- 髪を束ね、毛先を小さく折り返してまとめる。
- 幕下以下の力士が通常の取組で結う。
- 関取も稽古や普段の生活で結う。
- 大銀杏よりも簡素な形状。
日本相撲協会の2024年の公式解説では、かつて存在した栗髷などの形も紹介されていますが、現在の力士の髷は基本的に大銀杏と丁髷の2種類です。
大銀杏の見分け方は毛先に注目初めて相撲を見る人が大銀杏を見分けるなら、頭頂部の毛先に注目してください。
毛先が大きく広がっていれば大銀杏、小さくまとまっていれば丁髷です。
正面からでは違いが分かりにくい場合もありますが、後方や斜め後ろから見ると形状を確認しやすくなります。
また、髪型だけで力士の現在の番付を判断する際には注意が必要です。幕下以下でも特別な行事などで大銀杏を結うことがあるためです。
【いつ結う?】大銀杏を結う場面と幕下以下の例外
大銀杏は、関取がいつでも結っている髪型ではありません。
本場所での取組や公的な行事など、決められた場面で結うのが基本です。
本場所の取組や土俵入り十両以上の力士は、本場所の取組に出場する際に大銀杏を結います。
十両土俵入りや幕内土俵入りでも、大銀杏を結った力士たちが並びます。
一方、取組が終わった後や日常生活では、通常の丁髷に戻します。
日本相撲協会の説明でも、関取は本場所の取組だけでなく、公的な場所に出る際にも大銀杏を結う習慣があるとされています。
稽古や日常生活では丁髷十両以上の力士でも、稽古場や普段の生活では丁髷で過ごします。
そのため、テレビ中継で見慣れた大銀杏姿と、稽古場での姿が違うことも珍しくありません。
大銀杏は公式な場にふさわしい髪型であり、日常的に維持するためのものではないのです。
幕下以下でも大銀杏を結う例外がある原則として大銀杏は十両以上の力士の髪型ですが、幕下以下でも認められる場面があります。
日本相撲協会の2025年10月の公式クイズでは、次のような例外が紹介されています。
- 十両力士と対戦する場合
- 弓取り式を務める場合
- 初切(しょっきり)を務める場合
- 床山の練習台になる場合
- 引退時の断髪式
特に幕下以下の力士が十両力士と対戦する際には、上位の力士に対する敬意から大銀杏を結うしきたりがあります。
ここで注意したいのが、幕下上位であれば誰でも大銀杏を結えるわけではないという点です。
2026年1月の日本相撲協会の公式クイズでも、十両土俵入り後に行われる幕下上位5番の取組について、大銀杏が認められるという選択肢は誤りとされています。
単に番付が幕下上位だからではなく、対戦相手や役割など、具体的な条件によって判断されるのです。
【歴史と変遷】大銀杏はいつから力士の髪型になった?
大銀杏の歴史を理解するには、江戸時代から明治時代にかけての男性の髪型の変化を知る必要があります。
現在のように力士の髪型が統一されていたわけではありません。
江戸時代は時代ごとに髷の形が異なっていた江戸時代には、男性の髷は一般的な身だしなみの一つでした。
力士もその時代の風俗や習慣に合わせて髪を結っていました。
日本相撲協会の公式解説によると、江戸時代に入って大名に召し抱えられた力士の多くは、武士の身分に準じた髷を結っていたといいます。
そのため、現在の大銀杏が当時から全力士に共通する標準的な髪型だったわけではありません。
幕末から明治時代に大銀杏が広まる大銀杏が流行し始めたのは幕末ごろです。
その後、明治時代に入り、髪型をめぐる社会制度にも大きな変化が起こります。
1871年(明治4年)には断髪廃刀令が実施され、男性の髷や武士の帯刀をめぐる風俗が変わりました。
相撲界でも断髪が適用される動きがありましたが、力士の伝統的な風俗として結髪が認められ、現在まで受け継がれています。
明治中期ごろには大銀杏が力士の標準的な髪型となりました。
大銀杏の歴史を年表で整理| 時期 | 相撲の髪型・出来事 | 現代との関係 |
|---|---|---|
| 江戸時代 | 時代の風俗に応じて複数の髷が存在 | 髷の伝統の基礎 |
| 江戸時代中期以降 | 大名に仕える力士が武士に準じた髷を結う | 武士文化とのつながり |
| 幕末ごろ | 大銀杏の形が流行し始める | 現在の髪型の原型 |
| 1871年・明治4年 | 断髪廃刀令が実施される | 相撲界では結髪の伝統が継続 |
| 明治中期 | 大銀杏が力士の標準的な髷になる | 現在の大銀杏文化につながる |
| 現在・2026年 | 十両以上は大銀杏、幕下以下は通常丁髷 | 番付と髪型の関係が継続 |
この歴史は、日本相撲協会の2024年3月の公式解説でも説明されています。
興味深いのは、大銀杏が古くからまったく変わらない形で存在していたわけではないことです。
時代の流行や社会制度の変化を経て、現在の相撲界を象徴する髪型として定着しました。
【職人の技】大銀杏は誰が結える?床山の役割と結い方
大銀杏を結うのは、相撲部屋などに所属する専門職の「床山(とこやま)」です。
床山は力士の髪を整え、丁髷や大銀杏を結う技術を持つ職人です。
力士が自分で大銀杏を作っているわけではありません。
床山とはどのような仕事なのか床山は、力士の髪型を専門に担当する相撲界の裏方です。
日本相撲協会の2025年の公式クイズによると、床山は協会に所属する職員で、規定上の定員は50人とされています。
また、床山には五等から特等までの階級があります。
力士の番付とは別の独立した職業上の階級制度です。
興味深いのは、関取の大銀杏を結うために特定の床山階級以上でなければならないという規定はないことです。
ただし、誰でもすぐに美しい大銀杏を結えるわけではありません。髪質や毛量、頭の形を見極めながら、崩れにくく整えるには長年の経験が必要です。
大銀杏の結い方と使用する道具大銀杏を結う際には、いくつもの専用道具が使われます。
代表的なのは次のものです。
- 鬢付け油・すき油: 髪に艶を与え、まとまりをよくする。
- 荒櫛: 髪のもつれをほぐす。
- すき櫛: 髪の流れを整える。
- 揃い櫛: 髪をきれいにまとめる。
- 元結(もとゆい): 髪を束ねて固定する紙製のひも。
- 髷棒: 髷の形を整えるために使う道具。
基本的な工程は、髪をほぐし、油をなじませ、櫛で整え、元結で束ねた後、毛先を広げて大銀杏の形に仕上げるというものです。
単純に髪を結ぶだけではなく、左右のバランスや毛先の広がりまで細かく調整します。
力士ごとに髪質や頭の形が異なるため、同じ道具を使っても仕上がりは一人ひとり違います。
大銀杏を結うには何年かかる?日本相撲協会の公式解説では、大銀杏を結う技術の習得には10年以上かかるとも紹介されています。
一方、2025年の公式クイズでは、実際に結えるようになるまで5年ほどかかるという目安も紹介されています。
このように習得期間には幅があり、特定の年数を満たせば自動的に結えるようになる資格制度ではありません。
また、協会の公式解説によれば、熟練した床山でも一人の関取の大銀杏を完成させるまでに20〜30分ほどかかります。
本場所では多くの力士が出場するため、床山には正確さだけでなく、限られた時間で仕上げる手際のよさも求められます。
床山の技術を伝える取材記録2018年9月に公開されたnippon.comの取材記事では、高田川部屋の二等床山・床哲さんの仕事が紹介されています。
床哲さんは15歳から床山として働き、取材時点で29年にわたって髷を結い続けていました。
記事では、力士の髪質に合わせて櫛を通し、油をなじませ、元結を使って髪を固定する工程が紹介されています。
床山の仕事は、単に髪を結うだけではありません。力士の姿を整え、本場所の土俵に立つための準備を支える専門技術なのです。
【引退と伝統】大銀杏と断髪式の深い関係
大銀杏を理解するうえで欠かせないのが、力士の引退時に行われる断髪式です。
力士にとって髷は、現役生活を象徴する大切な存在です。
そのため、引退時に髷を切り落とすことには特別な意味があります。
断髪式ではなぜ大銀杏を結うのか断髪式では、引退する力士が大銀杏を結った姿で登場し、関係者などが順番にはさみを入れます。
最後には師匠などが髷を切り落とし、力士としての生活に区切りをつけます。
大銀杏は関取の象徴であるため、引退という節目にふさわしい髪型として結われます。
また、日本相撲協会の公式解説では、幕下以下の力士でも引退時の断髪式で大銀杏を結う例外が紹介されています。
したがって、大銀杏を見かけたからといって、その人物が必ず現役の十両以上の力士とは限りません。
大銀杏は力士としての誇りを示す存在髷は、単なる伝統的なファッションではありません。
長い修業期間を経て関取に昇進し、床山に大銀杏を結ってもらうことは、力士にとって一つの大きな節目です。
そして、引退時にはその髷を切り落とすことで、現役生活に別れを告げます。
髪型の変化を追うだけでも、力士のキャリアや相撲人生の節目を読み取れるのです。
【プロの結論】大銀杏は相撲の身分制度と職人文化を映す髪型大銀杏の本質は、見た目の華やかさだけにありません。
そこには、十両昇進という力士のキャリアの転換点、床山が長年磨いてきた職人技、そして引退時の断髪式に象徴される相撲文化が凝縮されています。
観戦する際には、次の3点に注目すると大相撲の楽しみ方が広がります。
1. 髷の形を見る: 大銀杏か丁髷かで、通常の番付や登場場面を理解する手掛かりになる。
2. 結う場面を見る: 本場所の取組、土俵入り、弓取り式、初切など、場面によって例外があることを知る。
3. 床山の仕事に注目する: 力士の髪型を支える職人の技術や、道具の使い方にも目を向ける。
力士の強さを競う土俵の裏側には、こうした伝統と専門技術を守る人々の存在があります。
【よくある質問】大銀杏に関するFAQ
Q1:大銀杏は十両以上の力士しか結えないのですか?
A1:原則として十両以上の関取が結う髪型です。ただし、幕下以下でも十両力士との対戦、弓取り式、初切、床山の練習、引退時の断髪式などでは例外的に結うことが認められています。
Q2:大銀杏と丁髷の違いは何ですか?
A2:最も分かりやすい違いは髷の先端です。大銀杏はイチョウの葉のように毛先を広げた形で、丁髷は毛先を小さくまとめた形です。関取も稽古や普段の生活では丁髷を結います。
Q3:大銀杏は誰が結うのですか?
A3:床山という髪結い専門の職人が結います。力士ごとの髪質や頭の形に合わせて、鬢付け油や櫛、元結などを使いながら整えます。熟練者でも一人につき20〜30分ほどかかると日本相撲協会は紹介しています。
Q4:大銀杏はいつ結うのですか?
A4:十両以上の力士は、本場所の取組や公式行事などで結います。稽古や日常生活では通常の丁髷に戻します。
Q5:大銀杏はいつごろ誕生した髪型ですか?
A5:日本相撲協会の歴史解説によると、幕末ごろから流行し始め、明治中期には力士の標準的な髷になりました。
Q6:幕下力士が大銀杏を結っていたら十両に昇進したということですか?
A6:必ずしもそうではありません。十両力士との対戦や弓取り式、初切、引退時の断髪式などでも大銀杏を結うことがあります。髪型だけで現在の番付を断定することはできません。
大銀杏とは、イチョウの葉に似た形に毛先を広げた、相撲界を代表する伝統的な髪型です。
原則として十両以上の関取が本場所の取組や公式行事で結い、幕下以下の力士は通常、丁髷で土俵に上がります。
その背景には、幕末から明治にかけて定着した歴史、床山が受け継ぐ高度な技術、そして力士の引退を象徴する断髪式があります。
2026年現在も、大銀杏は単なる髪型ではなく、力士の地位や相撲界の伝統、職人文化を伝える重要な存在です。
次に大相撲中継を見るときは、力士の勝敗だけでなく、頭に結われた髷にも注目してみてください。大銀杏と丁髷の違いを知るだけで、土俵上の姿から読み取れる情報が一段と増えるはずです。
主な参照資料
- 日本相撲協会「大相撲クイズ No.344」大銀杏の由来・力士規定・結う場面。
- 日本相撲協会「大相撲クイズ No.813」髷の歴史と明治時代の変遷。
- 日本相撲協会「大相撲クイズ No.1224」床山の階級と技術。
- 日本相撲協会「大相撲クイズ No.1388」幕下以下の力士が大銀杏を結う例外。
- nippon.com「髷結い:磨き抜かれた床山の技」床山の道具・技術・取材記録。